コラム
column
社会福祉法人の理事会にとって重要視すべき価値観とは(前編)
~株式会社の世界から学ぶ~
2023年12月号
【社会福祉法人法改正と株式会社のガバナンス(統治・支配・管理)】
社会福祉法人法は、2017年(平成29年)に、大きな法改正がなされました。
この法改正では、社会福祉法人の「公益性・非営利性の徹底」「国民に対する説明責任の履行」「地域社会への貢献」という視点が追加され、それらに呼応するかのように、「経営組織のガバナンスの確保」「運営の透明性の確保」及び「財務規律の強化」が図られることになりました。
実は、社会福祉法人の法改正は、株式会社の動きを参考に、その設計がなされています。
2013年(平成25年)に社会福祉法人の経営情報の公開義務が定められた「規制改革実施計画・閣議決定」(平成25年6月14日)は、これまで株式会社(上場会社)に義務付けられてきた情報公開の仕組みを参考に、その制度設計がなされています。
また、今回のテーマである、2017年(平成29年)に規定された「経営組織のガバナンスの確保」も、株式会社(上場会社)の仕組みを参考に作られていると思われます。
厚生労働省によると、「経営組織のガバナンスの確保とは、①評議員による理事・理事会に対する牽制機能の発揮、②理事・理事会等の権限・義務・責任の明確化、③会計監査人制度の導入」とされます。
2017年(平成29年)の法改正前には、理事会による理事・理事長に対する「牽制機能」という概念の制度化がなされておらず、それにより一部の理事や理事長による「暴走」が多く見られました。法改正で、それを「牽制」する機能が設けられた形です。
【社会福祉法人理事会の目標】
では、社会福祉法人の理事会は、一体何を目指して「牽制」機能を発揮すべきなのでしょうか。
その目標を一言でいうと、「中長期的な法人価値の向上」にあります。
株式会社の世界では、第二次安倍内閣のもと、第3の矢(民間企業の活力を引き出す)の一つとして「成長戦略としてのコーポレートガバナンスの強化」が打ち出されました(2013年)。
その際、東京証券取引所の上場ルールにも、「コーポレートガバナンスによって企業の競争力と中長期的な価値向上を強化すること」という文言が盛り込まれています。
株式会社の世界で、取締役会の強化や経営陣に対するアドバイスを実施されている、MN & Associates代表で、BBT大学院教授の中島正樹氏は、コーポレートガバナンスによって企業価値を向上させる視点について、以下のように解説されています。
コーポレートガバナンスの「事業・組織運営」「グローバル・ローカル」「ステークホルダー」に「時間」を加えた4軸で多面的に捉え、その解決に対応したコーポレートガバナンスを整備し機能させることによって、
企業の競争力を高め、中長期的に企業価値を向上させることができる。
資料:MN & Associates より
この図には、株主という言葉が出てきますが、社会福祉法人の世界では、評議員に置き換えてください。
また、グローバルというのは、まだ社会福祉法人の世界では一般的では無いと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、すでに外国人の施設長が誕生するなど、実は社会福祉の世界でも、グローバル化は着実に進んでいます。
RKBオンラインより
日本で介護施設長になったネパール人 最初は「なんしようと?」にとまどった
「ステークホルダー」「グローバル・ローカル」「事業・組織運営」の3軸に、「時間=中長期」という4軸目を加えることで、中長期的な企業価値の向上が目指せるという考え方です。
この概念は、ほぼそのまま、社会福祉法人の理事会運営に活かせます。
【社会福祉法人理事会の役割】
この4軸を念頭に置きながら、理事会(または評議員会)の議決を一つずつ丁寧に決議していくことで、社会福祉法人の中長期的な法人価値の向上を目指すことができるようになるのです。
株式会社の世界で起こる変化は、世の中の広範囲の層に影響を及ぼします。そこで起こることは、世の中の今の(または未来の)動きそのものと言えます。そしてこの変化は、時間差で社会福祉の世界にもやってくることでしょう。
株式会社で今まさに起こっている、コーポレートガバナンスの最新の動きを注視することで、社会福祉法人の世界における理事会(または評議員会)のあるべき姿のヒントが得られると考えます。
コラム後編では、社会福祉法人の理事会運営に活かしていただくために、上記で引用した「コーポレートガバナンスによる企業価値向上の4軸のキューブ」の図を、わかりやすく解説します。