コラム
column
社会福祉法人の理事会にとって重要視すべき価値観とは(後編)
~株式会社の世界から学ぶ~
2024年 1月号
前回(2023年12月)のコラム「社会福祉法人の理事会にとって重要視すべき価値観とは(前編)」では、2017年(平成29年)の社会福祉法改正で、理事会による理事・理事長に対する「牽制機能」が設けられた。そしてその目標は、「中長期的な法人価値の向上」にある、ということをお伝えしました。
後編では「コーポレートガバナンスによる企業価値向上の4軸のキューブ」の図を、わかりやすく解説します。
資料:MN & Associates より
【株式会社の最新理論をこれからの社会福祉法人の理事会運営に活かす】
「ステークホルダー」「グローバル・ローカル」「事業・組織運営」の3軸に、「時間=中長期」という4軸目を加えることで、中長期的な企業価値の向上が目指せるという考え方を、社会福祉法人の理事会運営にどう活かすのか?
社会福祉の「ステークホルダー」は、
です。
地球環境の保護を念頭に、地域社会や利用者のために存在する法人格、それが社会福祉法人です。
利用者やそのご家族、職員、そして地域の評議員の方々が、社会福祉法人のステークホルダー(利害関係者)になります。全てのステークホルダーのために、価値を創造することが求められています。
「グローバル」「ローカル」というところも、コラム前編で触れたように、外国人(ネパール人)の施設長が誕生するなど、着実に社会福祉のグローバル化が進展しています。外国人住民の多様性を尊重しながら日本社会とどう共存・包摂させていくか、という点も、社会福祉の主要なテーマの一つです。
【理事会での“健全な対立構造”を社会福祉法人の運営に活かす】
そして、社会福祉法人関係者の皆さんに、特に意識いただきたいのが、「事業・組織運営」の軸です。
中島正樹氏は下記の図の中で、取締役会と経営陣との間の「健全な対立構造」から生まれる「ダイナミクス」を「中長期的な企業価値の向上」に活かすべき、と述べられています。
資料:MN & Associates より
この図の「経営陣」を「理事メンバー」に、「取締役会」を「理事会」に、それぞれ読み替えた上で、本図を見てみましょう。
【理事会の本来の役割とは?】
それを「リスク」の面からひも解くと…
つまり、理事会は、個々の理事メンバーでは躊躇して取れない「リスク」を取ることを、後押ししてあげる存在である必要があります。
一つの法人が中長期の軸で、地域で生き残るためにこの事業を始める、または廃止する、などの判断には相応のリスクが伴います。それを理事会がバックアップし、リスクテイクの背中を押してあげる必要があるのです。それが理事会の重要な使命の一つです。
次に「戦略」の面からは
理事メンバーは、現場を兼務している場合も多くあります。その視点は、現場に寄って行き、時に確証バイアスという錯覚に陥ってしまうことがあります。
理事会では、そうした現場の当事者目線から生まれた確証バイアスに対し、それって本当に正しい判断なのか?というのを、勇気を持って投げかけてあげる必要があるのです。
最後に「人材」の面からは…
理事会では、数パーセントしかいないと言われる法人全体での一握りの優秀な人材(クリティカル2%人材)の発掘と育成を後押しします。
理事長の後継者となる人材の発掘と育成も、理事会での重要な使命の一つです。
【理事会は中長期の時間軸を担う責任を負っている】
そしてこうしたことは、全て時間がかかります。数か月や1年以内には成し遂げられないものばかりです。
施設の現場を任さられている施設長や兼務理事は、ついつい短中期での視点で意思決定を行ってしまいがちですが(これはこれでやむを得ないことです)、理事会はそうした時間軸を、より中長期に向ける役割を担っているのです。
また、理事会の決議についても、ついつい理事長の顔色を見ながら忖度的な発言で、お手盛りシャンシャンの場になりがちかもしれません。
しかし、グローバルな株式会社の世界で標準の考え方となっている取締役会の動きから学ぶ本来の理事会の在り方は、理事会と理事メンバーとの間の「健全な対立構造」から生まれる「ダイナミクス」を活用して、「中長期的な法人価値の向上」を目指す、というところにあることを念頭に、令和6年度の理事会運営のあるべき論をじっくりと模索いただけたらと思います。